ロイヤル・コンセルトヘボウと現代性

オランダ、ロイヤル・コンセルトヘボウ。今やウィーンフィル、ベルリンフィルの立場を脅かすほどの評価を得る世界屈指のオーケストラです。しかしながら、コンセルトヘボウが彼らと決定的に異なる点があります。それは、プログラムに自国の音楽がほとんどないということです。これにはオランダの歴史が深く関わっています。


ヨルゲン・ファン・ライエンとアルマ弦楽四重奏団を見て分かるように、彼らはこのギャップを埋めようと革新を続けています。彼らの背景に何があるのか、オランダ黄金時代と呼ばれる17世紀から歴史を辿ってみましょう。

 

  • オランダ黄金時代

オランダに黄金時代が訪れた理由は2つ。スペインから独立し、宗教・文化的に寛容な国となり、様々な才能が流入たこと。農業力の低さを補うための海上貿易が大いに栄え、ブルジョア階級が台頭し文化の保護者となったこと。ライクスミュージアムの華麗なホールのあちこちに飾られた絵画には、輝く銀食器や聖杯の中に横たわる牡蠣や皮をむいたレモンが描かれ、黄金時代の壮麗さを記念して建てられた建物が、かつての貿易のメッカ、ダム広場に今も誇らしげに接しています。

1642年レンブラント『夜警』

 

  • 空白のバロック、ロマン派

しかしながら、16世紀末から始まるバロック時代の作曲家を見てみると、近隣のイタリア、フランス、ドイツと比較してもほとんど言及されることがありません。
その原因の一つが、オランダ独立を導いたプロテスタントカルヴァン派にありました。オランダの国教となると、従来のカトリック芸術を徹底して排除し、絵画や彫刻のみならず宗教音楽までもが演奏されなくなりました。この中にはオルガンや大規模な器楽曲も含まれており、それがバロック期のオランダ音楽の空白を生みました。大衆に向いた音楽のなかで器楽曲は発展せず、他に類を見ないオーケストラを得た18世紀においてもなお、レパートリーには他国の曲が並んでいます。

偶像破壊を受ける教会

 

  • 飽くなき欲求と現代性

しかし、オランダ音楽の真骨頂はその大衆性にあるともいえます。20世紀後半にはロッテルダムテクノ、ガバが狂い咲き、今なおアムステルダムに重低音を響かせています。
ロイヤル・コンセルトヘボウの革新性もこうしたオランダの土壌に根差したものです。今回の来日でヨルゲン・ファン・ライエンとコラボするアルマ弦楽四重奏団はクラブハウスでのライヴをなん度も成功させ、ヨルゲン自身もサンプリングを多用した楽曲を作り世界を沸かせています。このムーブメントを日本で想像できるだろうか?


ヨルゲンとアルマ弦楽四重奏団にとって、クラシックは過去のものではないのだろう。音楽は常に現代性と融合されるものであって、彼らはオランダ人として当たり前のことをしているに過ぎない。そしてその無自覚なハングリー精神が、ロイヤル・コンセルトヘボウがベルリン、ウィーンを脅かす最大の理由なのだろう。

 

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  • 7月17日愛知公演 東海市芸術劇場 多目的ホール

    一般:5,000円
    U-18:1,000円(電子チケットのみ数量限定)

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  • 7月19日京都公演 京都コンサートホール アンサンブルホールムラタ

    一般:5,000円
    U-18:1,000円(電子チケットのみ数量限定)

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